一般的な学生が春休みを満喫する中、俺は学校までの坂を歩いている。 俺が一般的な学生であることに疑いはないのだが、俺を取り巻く環境はそうはいかない。 なにせハルヒに宇宙人に未来人に超能力者である。 ま、いまとなってはそうじゃない日常などまっぴらではあるが。 とはいえ休みの日は休みの日らしくゴロゴロしていたいというのは一学生として当然の欲求であるはずだ。 しかし、それを許すほど我らが団長様は甘くなく。 今日も今日とて部室に集合である。 冬もようやくやる気をなくし、早春の風が吹いている。 その風に吹かれながら、坂道を歩く。 去年初めてこの坂道を歩いた時は、本気で後悔したもんだ。 せめて学校見学くらいはしとくべきだった、ってな。 それがいまじゃ苦にも思わなくなったとなれば、人間の慣れとは恐ろしいもんだ。 慣れといえば、ハルヒがどこからともなくもってくる面倒ごともそうだな。 もはやちょっとした宇宙生命体くらいじゃ驚かない自信がある。 これは果たしていいことなのか悪いことなのか。 去年の今頃の俺が見たらなんて思うだろうね。 坂道を歩く。 思えば色々あったもんだ。 でかいカマドウマは現れ、冬の別荘に閉じ込められ、時間旅行はするわ、殺されかけるわ、しまいにゃハルヒと一緒に閉鎖空間と、ああ、また思い出しちまった。 どうして脳みそは忘れたい記憶を消してくれないんだろうか? 人間の頭はつくづく不条理だ。 坂道を歩く。 それにしても、去年の冬には色々出てきたもんだ。 長門とは別口の宇宙人に、朝比奈さんとは別口の未来人、それと古泉の機関とは別の組織ときたもんだ。 次は一体どんな事件が起こるんだろうかね? ハルヒ、お前なら知ってるか? ふと、足を止め、空を見上げる。 霞むような春の雲が、抜けるような青空を、風に吹かれて流れていく。 「そんなわけねーか」 坂を歩く。 今考えてもどうしようもないさ。 ハルヒの思考経路をたどるなんてこと出来るやつがいたら見てみたいもんだ。 そもそもすべての事件は須らく向こうからやってくるのである。 校門をくぐる。 何か起こったらハルヒ以外のSOS団の団員が奔走するのだ。 古泉が長々とわけのわからん話をして、朝比奈さんとまた時間旅行をして、長門が宇宙的な力を発揮するに違いない。 階段を上る。 だから、今は、一日を普通に過ごすとしよう。 ノックをして、ドアを開く。 俺にとっての一日ってやつをさ。 「よ、長門」 |