「待っている」 そうしてあの人はこの世界から姿を消した。 「また会おう、長門。しっかり文芸部で待っててくれよ。俺とハルヒが行くまでさ」 その言葉を残して。 わたしは、あの人のことをほとんど知らない。 しかし『わたし』は、あの人のことを知っている。 それは間違い。 『わたし』と同期したわたしは、すでに『わたし』なのだ。 あの人は涼宮ハルヒの鍵。 あの人は守るべき対象。 それも間違い。 あの人はわたしにとっても特別な人。 あの人はわたしを図書館に連れて行ってくれた。 あの人はわたしを気にかけてくれた。 あの人は── 「………」 少し胸が痛むように感じる。 なぜ? わからない。 あの人は、世界を作り変えるわたしの姿を見てどう思うだろうか? それを想像すると、少し胸が痛むように感じる。 なぜ? わからない。 「………」 やめよう。 わたしの役割は涼宮ハルヒの観察。 今は待機モード。 寝室に目を向ける。 寝室にはあの人と朝比奈みくるがいる。 いまの私の役割は彼らの時間を三年後の今日まで止めておくこと。 少し胸が痛むように感じる。 なぜ? わからない。 やめよう。 何もしないでいるとあの人のことを考えてしまう。 なぜ? わからない。 窓から空を見上げる。 そこには、きれいなきれいな天の川が流れていた。 そういえば、今日は七月七日。 この国では七夕。 笹に願いを書いた短冊を飾る習慣がある。 無意味。 そんなことはわかっている。 わかっているのに。 わたしはいつのまにか、空に向かって願っていた。 なにを? わからない。 それでも。 こうしていることは。 「──不快じゃないかもしれない」 そして、もう一言呟いた。 「三年後まで」 なぜ? わからない。 それはまるで、 たった一度の、 逢瀬を祝うかのようで。 |