しとしとと雨が降っている。
それはいいとしよう、梅雨だしな。
しかしここに一つ問題が存在する。
それは俺が傘を持っていない、ということだ。
そしてそれは珍しいことに、

「…………」

無言で隣にいる長門も同じようだった。



サイレントレイン




話は朝までさかのぼる。
朝一番にカーテンを開けると、抜けるような青空という言葉でしか表現できないような青空が広がっていた。
加えてちょいと寝坊気味だった俺は天気予報なんて見てる暇もなく、朝飯をかきこむと家を飛び出した。
当然傘なんて手にすることもなく。

嫌な予感はしてたんだ。
学校に向かってるやつらの中の結構なやつらが傘を持ってるのを見たときからな。
そして嫌な予感が外れたためしはこの高校に入ってからそうそうなく、無情にも授業が終わる頃から雨が降り出したというわけだ。

ちなみに言うとハルヒは、

「ほんっと鬱陶しいわね」

とぼやいていて、長門の本を閉じる音と共に部室から飛び出していった。
朝比奈さんもどうやら傘を忘れていたようだが、

「みくるいるー?」

ハルヒと入れ替わりに部室に飛び込んできた鶴屋さんの傘に入れてもらっていた。

「おやおや、傘をお忘れですか? それでは僕の傘に……」

断った。皆まで言わせずに。


こんな訳で俺はこの雨が夕立のようにさっさと止むことを祈りながら、長門と共に玄関に突っ立っている。
ところで長門、お前が傘を忘れるなんて珍しいな。何かあったのか?

「………」

無言で首をふる。
それじゃどういうわけだ?

「たまたま」

たまたま、か。それじゃどうしようもないな。

「ない」

それにしてもだな、長門なら宇宙的なパワーで傘の一つくらい作れるんじゃないか?

「作ることは可能。しかしする必要はない」

そりゃまたどうしてだ?

「……なんとなく」

今日の長門はなんとなくあいまいな返答が多いような気がするんだが、気のせいか?

「気のせい」

そうか。

「そう」

止まないと判断したのか、周囲にいた俺たちと同じ境遇のやつらがポツポツと頭の上にカバンをかざし走り出す。
どうする長門、俺達も走るか?

「いい」

しかしだな、あんまりやみそうにないぞ。

「このままで、いい」

ってことは、もうちょっと待てばやむのか?

「一時間以内には」

一時間以内か、結構長いな。

「私は平気」

そうか。

「そう」

長門は走る気はなさそうだ。
ま、お隣さんを置いて走る気もなく、そもそもよく考えたら早く帰ってもすることといえば妹の相手くらいであり、急いで帰る必要も無い。
たまには雨が止むまでゆっくり待ってもいいだろうという結論に達し、雨の景色を眺める。
長門も無言で目の前の光景をぼんやりと見ているようだ。

雨の音。
体育館からの歓声。
走り出すやつらの足音。
その中を二人で雨がやむまで待つ。

雨はまだ、やみそうにない。






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